感染症予防の父・ゼンメルワイス

【原因は医師の「手」にあった】
目に見えない細菌の存在が知られてい ないころ、どのように感染症は理解され、対策が立てられていたのでしょうか。感染症予防の父と言われるハンガリー人の医師、ゼンメルワイス・イグナーツの仕事にそのルーツを見ることができます。19世紀の半ば、オーストリアのウィーン総合病院の産科に勤務していたとき、ゼンメルワイスはお産の後の産褥熱という病気の発生率が、助産師の場合と医師の場合では10倍も違うことに注目しました。

そんなときゼンメルワイスは、うっかり手を切ってしまった同僚医師が、分娩後に死亡した妊婦の解剖を行なった後に、産褥熱と同様の症状で亡くなるという事件に遭遇しました。当時の医師は、手の消毒を行なっていませんでした。ゼンメルワイスは、臭いを放つ死体の破片が医師に付着したことが死亡の原因だと結論づけました。そこで脱臭効果のある塩素水に手を浸けることで臭いを取り除くと、産褥熱による死者は激減しました。それまで産褥熱による死亡率は30%もあったのですが、それを3%まで低下させたのです。

しかし、彼の画期的な仕事は、当時の医師の世界では受け入れられませんでした。その最大の理由は、「患者を殺していたのは医師の手である」という結論にありました。彼の業績を受け入れることは、それまで医師が”大量殺人”をしていたのを認めることを意味したからです。

感染症の研究は今後も続く

医師の世界から追放されたゼンメルワイスは、失意のまま死去しました。その後、1889年、ルイ・パスツールによって、ゼンメルワイスが追求した「死体の臭い」は連鎖球菌という細菌であることが発表されて、ようやく殺菌(消毒)の概念が認められたのです。日本では院内感染の実態が研究され、明らかになってきたのは、2000年代に入ってからです。感染症の研究はこれからも精力的に行なわれ、様々なことが明らかになることが期待されます。

うがいができるのは日本人だけ?

【風邪の予防とマウスウォッシュ】
風邪の予防策として、手洗いとともに有効なのが「うがい」です。子どものころから風邪が流行ると、「手洗いとうがいをちゃんとしなさい!」と親からうるさく言われ、学校でも指導があったと思います。インフルエンザも含め、風邪の原因となるウイルスなどは呼吸器系の細胞に感染します。うがいで洗浄することは、予防のための有効な手段なのです。学術的な研究でもこれは証明されています。

しかし、このうがいが日常生活に定着しているのは、世界的に見ると非常にめずらしいのです。うがいを意味するニュアンスの言葉に、「ガラガラ、ペーッ!」と「グチュグチュ、ペーッ!」というものがあります。前者が風邪の予防を目的とした喉のうがいだとすると、後者は口の中(口径)をきれいにすること、口臭予防を目的としたマウスウォッシュでしょう。マウスウォッシュは世界中にあるようですが、実は「ガラガラ、ペーッ!」は日本以外ではほとんど見られないのです。

正しいうがいのやり方

海外の医学博士と話をした際に、このことを聞くと、「日本ではうがいが風邪の予防手段になっていることは知っているが、ほかの国ではこれがなかなかむずかしい。文化になっていないので飲んでしまう」と言われました。確かに正しいうがいは、結構むずしいのです。

日本でも正しいうがいを実践できている人は意外に少ないというのが実感です。そもそも風邪の予防のためには、喉の粘膜に水やうがい薬などの液が届かないと意味がありません。単に上を向いて「ガラガラ〜」とやるだけでは喉の粘膜にまで届きません。喉を開いて、液がもっとも奥まで届くようにするためには、「オオオ…….」と言いながら、うがいするのが有効です。喉の奥まで液が届いていることを実感して、うがいをするようにしましょう。